【研究成果・プレスリリース】考古遺跡の高精度編年による人類史再構築のための国際的データベースの作成(日本文化学科 工藤 雄一郎 准教授)

【ポイント】
・ 日本の遺跡に関する放射性炭素年代を網羅的に集成する研究を2015年から現在まで8年間かけて実施し,これまでに44,425件のデータを集成しました。
・ 今回それらのデータをすべて英語化し,世界中で活用できる国際的なデータベースとして公開しました。
・ 英語化した全データは国立歴史民俗博物館に構築した英語版ウェブサイト(*2)から,どなたでも自由にダウンロードができます。

【発表の概要】
 学習院女子大学(新宿区 学長・大桃 敏行)国際文化交流学部日本文化学科 工藤 雄一郎 准教授は、国立歴史民俗博物館と共同で、日本の遺跡発掘調査報告書に掲載されている放射性炭素年代測定例の集成およびデータベース化を行うプロジェクトを推進しており、これまで44,425件のデータを国立歴史民俗博物館のウェブサイト(*1)で公開しています。

 今回、科学研究費助成事業 基盤研究B「考古遺跡の高精度編年による人類史再構築のための国際的データベースの作成」(22H00743、代表:工藤雄一郎)および 欧州研究会議助成金(ERC-Stg)「先史日本の縄文から弥生への移行期における人口動態、文化的変化、およびイネと雑穀の拡散 (ENCOUNTER)」、プロジェクト N. 801953(代表:エンリコ・クレーマー)の研究の一環として、ケンブリッジ大学のエンリコ・クレーマー准教授と共同でデータベースの英語化を進め、新たに英語版ウェブサイト(*2)を作成し、39,284件のデータを公開しました。

 このデータベースに関する論文が国際学術誌Journal of Open Archaeology Dataに掲載され、10月4日に公開されました。

 これは、世界的に見ても考古学的遺跡に関する最大規模の放射性炭素年代測定データベースです。このデータベースによって、考古学における年代研究が国際的にもより一層進むことが期待されます。

*1遺跡発掘調査報告書放射性炭素年代測定データベース
https://www.rekihaku.ac.jp/up-cgi/login.pl?p=param/esrd/db_param
*2 Database of Radiocarbon Dates Published in Japanese Archaeological Research Reports
https://www.rekihaku.ac.jp/up-cgi/login.pl?p=param/esrd_en/db_param


【発表内容】
<研究の背景と経緯>
 現在,日本では年間8000件以上の遺跡発掘調査が日本全国で行われています。考古学において遺跡・検出遺構・出土遺物の時代や時期を決定することは最も基礎となる作業であり,層位学的な検討と出土遺物を考古学的な相対編年に位置づける作業が行われます。
 その一方で,理化学的な年代測定による数値年代の把握も極めて重要で,加速器質量分析法(AMS法)による放射性炭素年代測定が普及した現在では,各都道府県や市町村の遺跡発掘調査においても多数の放射性炭素年代測定が実施されており,その測定件数は世界的にも突出しています。
これらの放射性炭素年代測定事例は考古学にとっても,人類学や歴史学,第四紀学などの関連科学にとっても貴重なデータですが,一人の研究者がその全てを把握するのは到底不可能な数の遺跡発掘調査報告書が毎年刊行されているのが現実です。また,日本の遺跡発掘調査報告書は日本語で記載されているため,海外の研究者がこれらのデータを活用するのは極めて困難な状況にありました。

<研究の内容>
 そこで,工藤らは,国立歴史民俗博物館の図書室にある約6万冊もの遺跡発掘調査報告書の悉皆調査を2016年度から開始し,放射性炭素年代測定の分析例がある報告書を抽出して1件ずつデータベース化する作業を進め,2018年から国立歴史民俗博物館のHPで公開を開始しました。現在もその研究は継続して行っており,2023年現在44,425件のデータが登録されています。
このデータベースは国際的にも極めて重要な研究成果であるため,ケンブリッジ大学のエンリコ・クレーマー准教授と共同で,データベースの英語化を進めました。
英語化にあたっては,日本語のオリジナルデータのすべての情報は不要であると判断し,主要な項目の英語化を行っています。また,オリジナルの日本語版のデータベースから,重複やデータ項目が不足しているものを削除し,合計39,284件のデータを公開しました。
本論文は,その作業のプロセスとデータベースの使用方法,データの所在(データセットの地理的な特徴(図1)や年代の特徴(図2))の特徴などについてまとめたものです。
 

fig1_20231027.png
図1 データベースの地理的な特徴
左)放射性炭素年代データが集成された遺跡の空間分布
  北海道から沖縄まで,日本全国のデータが網羅的に修正されたことが示されている。
右) 都道府県および主要な地理的地域ごとのデータ密度
  多くは埋蔵文化財保護の緊急発掘(記録保存)のために調査された遺跡であるが,放射性炭素年代測定の実施については都道府県によって偏りもみられる。

fig2-20231024.png
図2 データベースの年代分布の特徴
 紀元前 18,000 年から西暦 1868 年までの陸上起源の放射性炭素年代の合計確率分布。古墳時代の終わり頃まではデータ数が上昇しているが,それ以降は減少している。利用可能な文献資料の増加によって遺跡の時期も明確になるため,年代測定が実施される頻度も減少しているものと思われる。

<今後の展開>
 加速器質量分析法(AMS法)の効率化・高精度化によって遺跡での放射性炭素年代測定の事例は近年急速に増加しつつあり,日本語版のデータベースも順次更新を行っています。また,英語化データベースについても,今後さらなるデータの公開を行っていく予定です。
 年代測定のデータベースは,例えば弥生時代における稲作や雑穀利用の文化の拡散のプロセスやそのスピードをより詳細に明らかにすることや,後期旧石器時代の始まり(約38,000年前)以降の先史時代の日本列島における人口動態を解明するにあたって,極めて重要な資料となります。こうした基礎データが広く世界に発信されることによって,日本と世界の考古学研究がより一層進展することが期待されます。

プレスリリース本文はこちらをご覧ください(PDF)

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